生まれ変わる空き家事例~事務所・保育施設編業界ニュース,市場動向
最近、空き家問題を取り上げるテレビなどのマスメディアが増加しており、世間の関心が高まってきたように感じます。また、地方自治体においても空き家バンクを筆頭に空き家活用促進が謳われています。
空き家の用途としては、住宅に限定する必要はありません。空き家を「箱」と捉え、フレキシブルに活用することで、空き家の可能性はさらに広がります。今回は空き家に住宅以外の用途変更を施した事例を紹介します。
空き家から事務所へ
まずは空き家から事務所へという事例として、「HAGISO」を取り上げます。
かつては木造2階建アパートだった同物件には、現在、1階に「HAGI CAFE」という喫茶店、2階に設計事務所が入っています。同物件は、その活用手法だけでなく、地域性の観点からも注目すべき事例と言えます。
「HAGISO」は観光地として有名な谷中、根津、千駄木のいわゆる谷根千エリアに位置しています。谷根千エリアは、狭い路地に商店が建ち並び、下町の雰囲気を残した街並が、国内外問わず旅行客に人気を博しています。
「HAGISO」は1955年に木造2階建アパート「萩荘」として竣工、現在の施設運営者が2000年代に数年間住んでいました。
築年数62年となったこの不動産の資産活用を構想するならば、解体して駐車場かアパートを新築することが大多数の意見でしょう。
実際、萩荘の解体が予定されたこともありました。そのきっかけとなったのは東日本大震災で、家主が次回の震災時に崩壊してしまうことを危惧したためです。
また、近隣の老舗銭湯が解体されたことも影響したと考えられます。風呂なしの物件も多かった戦後まもなく、銭湯は貴重な存在であり、常連客を中心に銭湯の廃業を惜しむ声が多くありました。
これを踏まえ、解体前に最後のお別れとして開催されたのが、感謝イベント「ハギエンナーレ」です。3週間で近隣を中心に1000名以上の来場があり盛況でした。
これをきっかけに、萩荘を存続させる方向に家主の気持ちが切り替わり、解体ではなく、リノベーションを施し、現在に至っています。古い住宅には、住み手はもちろん、近所を行きかう人々にとっても、それぞれ思い入れがあるということでしょう。
空き家から保育施設へ
東京都では7月3日(日)、東京都議会員選挙の開票がありました。結果は小池百合子都知事率いる都民ファーストの会と公明党、いわゆる小池都知事派閥が過半数の議席を獲得し圧勝。自民党は議席数を大きく減らし、歴史的大敗という結果となりました。
当選議員の顔ぶれを見てみると30代、40代の若者が多いです。かつて自民党が率いた時代から新体制へと切り替わり、新しい都政のスタートとして、第一歩を踏み出しました。
建築に携わる者として注目すべきは、築地市場移転問題も然りですが、空き家を保育園として活用するマニフェストです。
この事例として、東京都内で先がけて事業を展開してきたNPO法人フローレンスの「おうち保育園」があります。
待機児童が多いエリアを中心に、空き家を活用して13ヶ所に保育園を所有しています。
活用対象となる空き家は様々で、マンションの1室や戸建空き家、医院、事務所用途の空き物件を有効活用し、保育園につくりかえています。
引き続き、不動産を募集していますが、全ての住宅が対象ということでなく、子供たちの安心、安全を守るために、以下の条件を設けています。
・80平米以上であること
・階数は2階以下であること、 2階以上である場合はエレベーターを要する
・新耐震基準であること
・緊急時の2方向避難が確保されていること
・検査済証が交付されていること
・壁面に窓があり、十分な採光が得られること
以上のように建築基準法に記載されている保育園に求められる要件も含められています。このマニフェストの実現には、ハード面の他、保育士の確保などのソフト面の課題もあります。
小池氏の都知事就任当時は「保育所として活用してくれれば、家賃を4分の3補助します」という手厚い施策構想があり、これらが実現できれば、待機児童問題と空き家問題の解決の一助となることは間違いないでしょう。
(情報提供:住宅産業研究所)