異業種参入で住宅産業の裾野が広がる(前編)業界ニュース,市場動向,ハウスメーカー,リフォーム・リノベーション
住宅業界の市場規模を中長期的に予測すると、生産人口の減少とともに住宅着工数も減少していくと考えられます。また、今後はユーザーの住宅需要も一層多様化すると見られます。
新築だけでなく、中古住宅を購入してリフォームして住むというニーズは高まるでしょう。将来的に老後は高齢者住宅に入居することを想定し、持家を持たず一生賃貸でも構わないという層もいるでしょう。
コンパクトシティ化が進めば街の機能が集約され、利便性の高い都心部のマンションの需要も高まってきそうです。
新築戸建住宅だけで事業を継続していくのは
次第に難しくなってくると思われます。
新築から幅を広げるための周辺分野としては、
リフォームや不動産仲介などの事業が考えられます。
大手ハウスメーカーでは、賃貸管理や高齢者ビジネス、
海外市場にまで事業領域を広げています。
特に他分野へ事業領域を拡大しているのが大和ハウスです。
住宅以外の分野では、ロボットや通信、発電、
農業の工業化などにも事業を展開しています。
住宅会社が異業種に進出していくのと同様に、
住宅に関連する生活サービス全般に異業種が参入してきています。
つまり、業界間の垣根が下がってきているということであり、
新規参入によって新たな競合が発生してくるのと同時に、
異業種間の連携・提携も今後は増えてくるものと思われます。
■ Amazonがリフォーム参入
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
最近の大きな話題としては、
インターネット通販サイトの国内最大手であるAmazonが、
リフォーム事業に本格的に参入してきました。
Amazonのリフォームストアで購入できるのは、キッチン、浴室、
トイレ、洗面・脱衣所などの各設備や
ハウスクリーニングなどの商材です。
実際に商品・サービスを提供するのは、
Amazonジャパンと提携した積水ハウス、大和ハウスリフォーム、
ダスキン、ソニー不動産の4社です。
今年6月のリフォームストア立ち上げ時には、
4000件強の商品・サービスを取り揃えました。
Amazonのリフォームの基本的な流れは、
(1)ユーザーがAmazonを通じてリフォーム商品・サービスを選ぶ
(2)注文すると施工業者からユーザーに連絡が入る
(3)日程を調整して施工業者が現場調査を行い、
リフォームの内容を打ち合わせする
(4)ユーザーが工事内容や金額に納得すれば契約、支払いという
流れで、(3)までは原則無料としています。
積水ハウスでは、施工は主に子会社の積和建設が担当します。
大和ハウスでは、水回り設備の交換依頼のみでも、
点検ロボットによる床下点検を無料で実施し、
インスペクション(建物診断)も別途提供します。
Amazonとの提携によるハウスメーカー側のメリットは、
新たな客層を開拓することです。
積水も大和も、これまでのリフォーム事業は
自社で建てたオーナーを対象としたリフォームが
大半を占めていました。
国内最大手のAmazonと提携することで、
ネットで買い物をする一般ユーザーのリフォーム需要を
捕捉できる可能性が広がります。
Amazonのリフォーム参入による、他の影響も考えてみます。
第一に、ユーザーにとってリフォームがより身近になること。
複数のリフォーム会社に見積もり依頼ができる
ポータルサイトの利用者は増えていますが、
あくまでリフォーム需要が顕在化しているユーザー向けのサイトです。
他の一般の小売商品も扱うAmazonが
リフォーム商材・サービスも取り扱うようになることで、
潜在的なリフォーム需要を掘り起こすことが期待されます。
第二に、リフォーム価格の一般化です。
Amazonのリフォームストアでは、
価格は施工費込の定額制としています。
他のリフォーム専業業者や、
家電量販店・ホームセンターのリフォームでも、
水回り設備等の施工費込み定額表示は行っていますが、
現場ごとに現地調査をして施工費を算出するのが一般的です。
インターネット通販が普及したことで、
家電業界では「家電量販店で商品を確認して、
価格の安いAmazonで購入する」という客層が増えました。
リフォームでも全く同じようなことが起こるとは言い切れませんが、
Amazonの価格をリフォームの価格の基準として業者選びをしたり、
値引き交渉を仕掛けてくるようなことは起こり得ます。
Amazonのリフォーム参入は、リフォーム需要を喚起し
市場を盛り上げるきっかけとなるか、
住宅会社の顧客層を奪うことになるか、明暗はまだわかりませんが、
異業種参入の大きな動きの一つと言えます。
(情報提供:住宅産業研究所)