「住生活基本計画から見る政策の方向性【1】」市場動向
2006年に制定された住生活基本法に基づいて、
概ね5年ごとに「住生活基本計画」が見直されています。
前回は2016年に、
2016~2025年度を計画期間とする見直しがされました。
それから5年が経った今年、
3月19日に新たな「住生活基本計画」が閣議決定されました。
その内容から、
新たな時代の豊かな住生活の実現に向けた計画を見て行きます。
住生活基本計画の視点と目標
今回の「住生活基本計画」は、
以下の3つの視点・8つの目標で構成されています。
◆「社会環境の変化」の視点
【目標1】「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現
【目標2】頻発・激甚化する災害新ステージにおける
安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保
◆「居住者・コミュニティ」の視点
【目標3】子どもを産み育てやすい住まいの実現
【目標4】多様な世代が支え合い、高齢者等が健康で安心して暮らせる
コミュニティの形成とまちづくり
【目標5】住宅確保要配慮者が安心して暮らせる
セーフティーネット機能の整備
◆「住宅ストック・産業」の視点
【目標6】脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と
良質な住宅ストックの形成
【目標7】空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進
【目標8】居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展
「社会環境の変化」~DXへの対応と災害対策
今回新たに加わった目標として特徴的なのが、
【目標1】の
《「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現》です。
具体的には、住居内にテレワークスペースを確保して、
職住一体・近接、在宅学習の環境を整備することや、
宅配ボックスの整備などにより、
非接触型の環境整備を推進することが示されています。
ここで言われている「新たな日常」は、
新型コロナウイルスの感染拡大以降の新生活様式が
イメージされていると見られます。
数値的な成果指標は定められていませんが、
新しい住まい方への移行が推進されるということです。
DXの進展への対応としては、
住宅に関する契約・取引プロセスのDXの推進、
住宅の設計から建築、維持・管理に至る全段階における
DXの推進の二つが示されています。
住宅に関する契約・取引のDXについては、
以前から不動産取引における
重要事項説明のIT化が進められています。
2017年10月からは賃貸契約においてIT重説が本格的に運用され、
並行して書面の電子化の検討も進んでいます。
売買契約では2019年10月より当初は
1年間の社会実験が予定されていましたが、
コロナ禍によるオンライン取引の需要増を踏まえて
期間が延長されました。
売買契約の社会実験の登録事業者へのアンケート等から、
重大なトラブルは確認できなかったとして、
今年4月から本格運用を開始することがほぼ決定されています。
また、宅建業法に基づく不動産取引だけでなく、
建築士法に基づく設計受託契約についても
IT重説の社会実験が行われています。
IT重説の普及によって、住宅販売のすべての過程が
すぐにオンラインに移行するわけではなくても、
非対面でも進められることが増えれば商談期間が短縮され、
働き方や生産性の向上にもつながってきそうです。
住宅の設計から建築、維持・管理でのDXに関しては、
設計・建築では3DCADやBIM、維持・管理では家歴書を
デジタル化してクラウドに保存して管理するような
アプリの普及が広がっています。
成果指標として「DX推進計画を策定し、実行した大手企業の割合」
を2025年には100%にするという数値目標が示されています。
【目標2】の災害対策では、
ハザードマップの整備・周知、
・豪雨災害等の危険性の高いエリアでの住宅立地を抑制、
住宅の耐風性・耐震性・レジリエンス機能の向上等が
示されています。
また、近年頻発している台風や大雨による水害への対策として、
「地域防災計画等に基づき、ハード・ソフト合わせて
住まいの出水対策に取り組む市区町村の割合」を
2025年には5割にするという成果指標が示されています。
(情報提供:住宅産業研究所)