試行錯誤の空き家ビジネス市場動向
空き家に価値を足すカチタス、年商1000億達成も近い
首都圏を中心とする中古マンションの再販事業が主流の買取再販業界において、地方の戸建に特化して成長してきたのがカチタスです。群馬県桐生市に本社を置く同社は1978年に「やすらぎ」という社名で創業しました。当初は石材業が主要事業でしたが、1988年に不動産売買事業を開始し、1998年から中古再販事業をスタートしています。
そのため、買取再販の業態となってからは20年ほどが経過し、現在、全国に100店舗超、買い取り・販売実績は累計5万戸以上に上ります。同社は2017年12月、東証1部に上場し、その後も業績は堅調です。2019年3月期売上高813億円、経常利益87億円まで伸ばしており、経常利益率10%以上を維持しています。販売件数ベースでは3,996件、その内、戸建の販売比率は92.4%と大部分を占めます。グループのリプライスでは販売1,356件、両社合算5,352件と業界トップクラスの実績を誇ります。今後も成長路線は変わらず、中期計画として2022年3月期1,100億円を目指すと発表しています。
同社の強みの1つには、ターゲットを明確に絞り込んだビジネスモデルが挙げられます。展開エリアは人口5万~30万人規模の地方都市で、顧客イメージとしては年齢が30代~50代、年収200万~500万円で、投資目的の購入でなく、実需を想定しています。18年度実績で、1件当たりの平均価格は1,338万円(税抜)です。再販事業において売上ソースとなるのは中古物件であり、仕入れが肝心です。仕入れ対象となる物件は、主に相続などによって空き家となった築年数30年内外の中古戸建住宅です。競売物件を仕入れるケースも一部ありますが、価格が上昇傾向にあるため、カチタスとしては競売物件よりもエンドユーザーからの取得を重視しています。物件募集の告知は、定期的に打つテレビCMが中心です。「高価格で買い取る」と発信するのではなく、「他社で断られた家でも、カチタスなら買える」、「すぐに現金化出来る」ことを訴求しています。
グループのリプライスではビジネスモデルが少々異なります。同社が展開するのは人口30万~50万人の都市エリアで、扱う中古物件は築年数が比較的浅い20年内外を想定しています。リプライスの再販物件の平均単価は1,882万円(税抜)です。地価が比較的高いこともあり、地方エリアが中心のカチタスの物件よりも平均単価は上回っていますが、それでも商圏におけるリプライス物件の価格優位性は高いようです。価格を抑えた販売を可能としているのは徹底されたコスト管理が要因です。建築資材のコスト削減は、グループで年間5,000戸超分を大量発注するスケールメリットを活かしています。
また、施工コストに関しては一定数以上のリフォーム工事を年間通して安定的に施工会社に発注することで、1棟当たりの施工価格を抑えているということです。販売促進策ということではニトリの家具によるホームステージングが特徴の1つです。入居後の生活や居住空間をより具体的にイメージでき、家具も購入する場合には費用を住宅ローンに組み込めるため、買主の初期費用の負担を軽減できるメリットもあります。また、カチタスの物件購入者にはニトリの商品購入時に使用できる5%割引クーポンをプレゼントするキャンペーンも行っています。
カチタスに続くか、リフォーム専業会社と地場鉄道系が地域の空き家問題に着手
近年、全国的に問題視されている空き家の増加ですが、前述のカチタスが展開する事業はこれらの空き家をリフォームして再市場化するという点で社会的意義があると言えます。そして、このようなカチタスに続く企業も現われ始めました。その企業の1つは愛知のリフォーム専業系大手のニッカホームです。同社はリフォームでグループ300億円を売り上げる業界トップクラスの企業です。これまでも買取再販事業としては、グループのニッカ不動産が手掛けてきましたが、空き家の再販にもチャレンジしています。第1弾となる再販物件は、名古屋市営地下鉄築地口駅から徒歩2分に位置する築50年以上の住宅です。事業をスタートするに当たり、駅に近いなど利便性が高い物件をターゲットに据えているとのことです。600万円をかけて住宅を改装し、この12月中の完成を予定しています。
2社目は静岡の静岡鉄道です。同社はかねてより不動産部門「静鉄不動産」を展開しており、同部門において2019年5月、空き家の再販ブランド「RENOVUS(リノウス)」を立ち上げました。第1弾となる物件は約20年前に自社で販売した静岡県三島市内のマンションの1戸で、リフォーム後再販となる予定です。水回りなどを最新設備にリプレイスし、和室とリビングの境界には格子状のふすまを設置するなどデザインにこだわった内装に造り替えました。この他、構造部分の点検や、引き渡し後に不具合が見つかった場合の既存住宅瑕疵保険をつけ、安全性も訴求しています。同社はこのブランドで初年度10戸程度、将来的には年間50戸販売を目指しています。
(情報提供:住宅産業研究所)