建設業界の人手不足問題が深刻化経営・人材育成,市場動向,ハウスメーカー
野村総合研究所は、6月13日に「2030年の住宅市場と課題」と題した住宅市場予測を発表しました。この発表によると、今後、戸建住宅の建設などに携わる大工の人数が大幅に減少するということです。
2030年には大工の人数が21万人に減少
大工の人数は2015年時点では、35万人となっていましたが大工の高齢化や、産業間の人材獲得競争の激化などが影響し、2030年には21万人にまで減少すると見込まれています。
野村総研では、かつてプレハブ住宅が我が国における住宅の量的不足や建設技能者の不足を解決するために大きな役割を担ったと評価をした上で、今後、建設現場での工数削減に寄与したり、熟練工の技術に依存しない建材や設備といった、人手不足問題に対する解決策が求められると提言しています。
このような状況の中、住宅会社各社でも将来的な大工の人手不足問題の懸念を解消するため、様々な施策に取り組んでいます。
大手ハウスメーカーの人手不足対策
建設現場での大工の高齢化や人手不足の問題が課題となっている中、大手ハウスメーカーでは、建設用ロボットなどの先端技術を開発・活用し、建設作業に従事する職人の労働環境の改善を図る動きが活発になっています。
積水ハウスは6月に、開発中の住宅施工ロボットと、施工現場で職人の力仕事の負担を軽減するアシストスーツを公開しました。
積水ハウスが公開したロボットは、福岡県のメーカー「テムザック」と共同開発した自走式のロボット2台で、建設資材を上に持ち上げる作業と、持ち上げた資材をビスで固定する作業に、それぞれ役割が分かれています。
作業員が設計データなどが入ったタブレット端末を使って、2台のロボットに指示を送ると、ロボットがAI(人工知能)で互いに通信を行いながら天井に石膏ボードなどを貼りつけていくことができるというものです。
アシストスーツの「エクソベスト」は、施工を行う職人がリュックのように背負い、腕に専用の器具を装着することで、職人の負担を軽減するというものです。ガスの圧力によって上腕の力を補助し、職人が大きな負担を感じるとされる上向きでの作業をアシストしてくれます。
エクソベストの開発はアメリカの企業によるもので、積水ハウスでは、「ダイドー」と共同で日本人の体型に適した仕様へと改良を進めているということです。
同社は、2台の住宅施工ロボットは2020年までの現場での実用化を目指し、今後、ロボットによる作業の速度と安定性を高める研究を進めていくということです。また、アシストスーツは、既に同社の施工現場で試験的に導入されいて、今年12月の本格導入を計画しています。
鉄骨ユニット工法を採用するセキスイハイムでは、ユニットを製造する工場にロボットを導入することで、作業の効率化を図っています。
セキスイハイムでは、大工の高齢化や若者の大工離れが深刻化していることに備え、2014年にユニット製造工場のリニューアル工事を実施しました。新たに多品種対応型溶接ロボットをはじめとする複数の大型ロボットを導入することで、工場であらかじめ取り付ける部材の数を増やし、現場で行う作業の工程数を削減することができたということです。
リニューアル前は、トイレやキッチンなどを工場であらかじめユニットに取り付けていたものの、クロスを貼ったり、その他の部材の取り付けなど、現場で行わなければいけない作業が約100工程ありました。
しかし、新たに大型ロボットを導入することで、工場での作業を集約化することができ、空いたスペースを活用して、浴室カウンターや水栓の取り付け、安全対策の一環として設置する仮の手すりなどが工場で取り付けられるようになりました。
これにより、現場での作業工程数を80台半ばまで削減することができたということです。セキスイハイムでは、大工不足のさらなる深刻化を見据え、今後、現場での作業工程数を70工程まで削減することを目指しています。
(情報提供:住宅産業研究所)