賃貸住宅の多様化商品・トレンド,ハウスメーカー,リフォーム・リノベーション,太陽光/省エネ/ZEH関係,IoT/AI/VR関係
前回は、「住宅市場を牽引してきた賃貸住宅にもやや翳りが見え始めた」「賃貸住宅の市場は大手3社の占有率が高い」という内容をお届けしました。土地オーナーの資産活用の一つとして、アパート建築の需要が急激に減るということはないでしょうが、賃貸住宅の供給は飽和しつつあり、入居者の確保が課題となってきます。
空室が続くとアパート経営は成り立ちません。ハウスメーカーやアパート専業業者では、表面的な利回りの訴求だけでなく、高い入居率を維持するために付加価値を加えた商品提案を行っています。
アパートに導入される先端技術~ZEH、AI、IoT…
積水ハウスでは、今年8月に石川県金沢市で、全住戸でZEHの基準を満たす3階建賃貸住宅を着工し、来年1月に完成する予定です。
全13戸に高断熱複層ガラスを採用し、高効率エアコン、高効率ヒートポンプ給湯機、節湯水栓、LED照明等の省エネ設備を採用することで、エネルギー消費量を最大限に削減します。
集合住宅は住戸数に対して屋根面積が小さいため、太陽光発電を設置してもZEHの基準を満たしにくいとされてきましたが、各住戸の性能を高めることで、31.5kWの太陽光の設置でZEH基準を満たすことができます。全住戸でZEH基準を満たす賃貸住宅は全国初です。
賃料は周辺相場と比べて月5,000円程高くなりますが、入居者は創エネの電力で賄える一定量までは電気代を払わなくてもよく、生活費は割安になる可能性が高いと試算されています。
この他にも、全世帯の駐車場に電気自動車用コンセントを設置する等、入居率を高めるために様々な付加価値を付けた賃貸住宅として注目されます。
レオパレス21では、女性の単身入居者をターゲットとしてリビングに水栓付きのドレッサーを設けたプラン等を商品化しています。
壁紙は入居時に100種類以上から無料で選んで自分好みの空間を作れるようにしています。昨年10月の完成物件以降は、スマートフォンによる家電制御機器「レオリモコン」を新築全戸に標準装備しています。
専用アプリを入れることで、同社の賃貸物件に標準で備え付けられている家電はもちろん、入居者が所有している赤外線リモコン対応家電もスマホから遠隔操作できる機能を持ちます。
今年7月に竣工した新築マンションでは、NECの顔認証AIエンジン「NeoFace」を導入しました。
事前に登録されている居住者がエントランスに備え付けられたタブレットPCの前に立つと、瞬時に顔を検出・認証し、自動ドアのオートロックを開錠します。両手に荷物を持って手が塞がっている場合も顔を近づけるだけで自動ドアのロックを開錠でき、検出した顔画像や照合した結果はログとして残すことができるため、安全面での向上につながると訴求しています。
シェアハウス、民泊、新しい賃貸住宅の形
賃貸住宅の空室問題で、新築以上に大きな課題となってくるのが既築住宅です。築古で入居率の低い賃貸住宅は、全面改装や単純な建て替えで入居率を高めるのは難しいかもしれません。エンドユーザーの住まいに対する考え方の変化とともに、これからは賃貸住宅も多様化に向かうでしょう。
シェアハウスや多世代コミュニティ賃貸、農地共有型賃貸、外国人向け高級アパートメント、民泊、サ高住等、さまざまな形の賃貸住宅の需要が広がり、それを新築で供給するのか、もしくは既築の賃貸住宅ストックをコンバージョンして空き家問題に対応するのか選択肢が広がります。
いずれにせよ、戸建住宅の市場が縮小し土地が余っていく時代に対応するために、賃貸住宅も含めた土地活用提案は、事業多角化の一つとしてビルダー・工務店も一度検討してみる価値はありそうです。
(情報提供:住宅産業研究所)