住宅の地震対策は耐震だけじゃない?~制震・免震技術耐震・制震・免震関係
前回の耐震技術に引き続き、今回は、住宅・建築分野においてまだ発展途上である制震・免震技術についてご紹介致します。
制震技術事例:ダンパーで地震のエネルギーを吸収
地震のエネルギーを吸収してくれる「ダンパー」ですが、「オイルダンパー」や「鋼板ダンパー」などの種類があります。
オイルダンパーは、シリンダー内のバルブを通る油によって抵抗力を発生させるダンパーです。オイルを使っているために、油漏れがないかなどの定期的な点検が必要になってきます。オフィスビルに使われることが多い技術です。
鋼板ダンパーは頑丈な鋼板で作られていますが、中間部分は柔らかい鋼板で作られており、その部分が変形して揺れを吸収する仕組みになっています。変形がない限りは交換が不要で、分譲マンションなどに使われています。これらは設置する位置も重要になってきます。
メンテナンスを必要とする場合は、マンションにおいては廊下などの共用部に設置して、住民の生活に支障を与えないようにしなければなりません。
風も建物の揺れを引き起こす原因の1つです。高層になればなるほど風から受ける影響は大きくなります。ホテルやマンションなどの居住スペースを有している建物の場合、建物本体への被害はなくとも、安全性・居住性に欠けることもあります。制震構造はその揺れも抑えて建物を守ります。
東日本大震災後、地震への備えがさらに重要視されるようになってから、住宅への制震装置導入も多くなってきました。熊本地震でも家屋の倒壊が見られ、建物を守る技術への関心がますます高まるかと思われます。
住宅の制震技術で存在感を示すのが、住友ゴム工業の「ミライエ」です。同商品は、木造住宅用制震ダンパーとしては、国内1位の供給量を誇ります。在来木造や2×4工法の住宅に導入できることから、全国のビルダー、工務店で多く採用されています。
「ミライエ」は阪神淡路大震災級の揺れに5回も耐えられることが実証されていること、また90年メンテナンスフリーである点が特長です。大型の橋梁やビルでも同社製制震ダンバーの採用事例は多く、実績に裏付けられた安心できる商品と言えます。
耐震構造は「躯体を強固にする」ことがメーンで、制震構造は「揺れを抑えて建物への被害を少なくする」ことがメーンです。近年はそれを合わせたものを扱うメーカーが増えてきています。
免震技術事例:地面と住宅を絶縁して揺れを抑制~一条工務店
一条工務店が一条ハイブリッド免震構法の開発に着手したきっかけは、1995阪神・淡路大震災です。調査に入った同社の社員が現地を歩き回り、免震装置が取り付けられていた郵政省のビルや大手ゼネコン企業などの社屋が、大きな被害を受けずに、微動だにしていないことも目にし、免震技術の開発に至りました。
免震住宅は地震による激しい揺れを特殊な装置を用いて吸収し、ゆっくりと揺らせることによって地震被害を免れるというものです。基礎と住宅を切り離すようにして、地震力を受け流すのが特徴です。
このため住宅本体に損傷を与えることがなく、家具の転倒・落下による二次被害を防ぎ、人命や家財を保護することができます。耐震構造は建物が大きく揺れても建物自体は倒壊を防ぐことができますが、家具などが倒れるという危険性が残ります。免震住宅は建物と地盤が共振せず、建物内部も安全です。
同社は技術面とコスト面の問題を解決するために、「積層ゴム」と「スライダー」を組み合わせました。2つの組み合わせは国内で初めてです。
積層ゴムは戸建て住宅の特別仕様に開発された超低弾性ゴムです。内部は超低弾性ゴムと鋼板が何層も重ねられており、水平方向の力に大きく変形する性能を持っています。地震時にゆっくりとした周期で建物を振動させ、地震が収まった後には建物を元の位置に引き戻す役割があります。
スライダーは、ステンレス板に特殊コーティングした摺動子と滑り板を用いた支持面で低摩擦化を実現しました。コーティングはテフロン系ポリマーアロイ処理されており、360度自由な方向に滑らせることによって地震力を吸収する仕組みとなっています。
300万円以上という施工金額がネックとなっており、本格的な普及はこれから。しかし、現在普及している免震住宅の多くは、一条工務店の住宅です。戸建注文住宅供給量において積水ハウスを抜いて全国1位に躍進した同社の勢いを見る限り、免震住宅の認知度が高まり普及が加速していくことも想像に難くありません。
(情報提供:住宅産業研究所)