災害に備える住まい~ユーザー編業界ニュース
東日本大震災の発生から丸5年が経過しました。
被害の大きかった東北では未だに復興に向けた取り組みが続いていますが、震災は現地に大きな被害をもたらしただけでなく、私達の住宅観にも大きな影響を与えました。
そこで今回は、震災後の住まいに対するユーザーの考え方に触れ、次回はそれを踏まえた上での、住宅会社の防災住宅に対するアプローチについて見ていきたいと思います。
■ 地震対策ニーズは両極端な傾向強まる
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震災後の住まいに対する評価を見ると、
地震に対しての住まいのスタンスは両極端であることがわかります。
例えば国土交通省が実施した平成25年住生活総合調査では、
住宅及び居住環境における評価として、
地震時の住宅の安全性が「最も重要と思う」との回答は
13.2%と全項目でトップでした。
一方で、地震時の安全性に対して
「最も重要と思う」に加えて
「次いで重要と思う」まで含めた地震関心層の合計は31.8%で、
「治安、犯罪発生の防止(35.5%)」
「日常の買い物、医療・福祉・文化施設などの利便(34.4%)」
よりも低い結果となりました。
地震対策を最も重要とする層は多い反面、
いつ起きるか分からない地震よりも、
治安や利便性など日常生活におけるメリットを
重要と考える層も多いと言えそうです。
地震への関心が高い層は、「住める地域」「住めない地域」を見極め、
移動する傾向があります。
震災4日後の3月15日に震度6強の大きな地震に見舞われ、
東海地震の発生も懸念される静岡県では、
2011年以降転出が大幅に増加しました。
全国21大都市の2011~14年の転出入状況を見ると、
静岡市は北九州に次いで全国2位の転出超過。
浜松市も全国3位の転出超過となっています。
特に静岡市周辺は
焼津市や島田市といった周辺の沿岸地域も含めて、
藤枝市など周辺の内陸部へ移動するなど、
県内でもエリアの特性をシビアに見極める動きが出ています。
宮城県や岩手県でも高台の土地に人気が集まるなど、
地震が身近なものとして捉えられている地域では、
土地を見る目は厳しくなっています。
■ 身の丈住宅が増加する
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持家を購入することによって、被災した際のリスクがより大きくなることを
敬遠するユーザーも増えてきています。
近年、若年層は家を買わなくなったと言われますが、
所得の減少だけでなく、
多額の住宅ローンを抱えたまま家をなくすというリスクに
震災以降リアリティを感じる層がより増えたことも影響しています。
その結果、
資産にはならなくてもリスクを抑えることができる賃貸住宅や、
大きなローンを組まずに購入することができる
ローコストな企画住宅、中古マンションなど、
無理をしすぎない、ある種身の丈に合った住まいを
選ぶ傾向が強くなっています。
特に中古マンションは価格の手ごろさと利便性に優れ、
物件ごとにバラつきが多い戸建と比較すると
構造性能も比較的担保が取れているなど、
3つのユーザーニーズを満たしており、市場は急拡大しています。
また、3月18日に
新たに2016~2025年度の住生活基本計画が閣議決定されましたが、
その中で
2023年には500万戸に達すると見られる空き家対策として、
空き家を活用して子育て世代の住まいとする
「準公営住宅」も検討されています。
具体的な内容が決まっていくのはまだ先の話ですが、
より安価でリスクを抑える住まいが供給されることによって、
こちらも若年一次取得層の住宅購入に
大きく影響してくる可能性があります。
被災のリスクを考えて
身の丈の住まいを検討するユーザーに対して、
ただ「地震に対しても強い性能を持っていて安心ですよ」
では響きません。
「なぜ賃貸や中古マンションではなく、戸建を買う必要があるのか」
など、戸建住宅を買うための動機付けについて、
初回来場の前段階の情報発信も含めてフォローしていく必要がありそうです。