制度開始から4年、サ高住の現在地(前編)業界ニュース,市場動向
国内人口が減少に転じている中で、高齢者の人口は未だに増加を続けています。
2030年には総人口に占める65歳以上の高齢者は30%超に達し、しかもそのうち4割近くを1人暮らしの単独世帯が占めると言われています。
高齢者が住まいの中で遭遇しやすい事故としては、段差での転倒やヒートショック、急な体調の変化といったものがあります。いずれの場合でも、同居の家族が居れば早期の対応が可能ですが、今後一人暮らしの高齢者が増えていけば・・・
これらのトラブルが発生しても
長時間気づかれないままというケースは確実に増加します。
こういった背景から2011年11月に開始した制度が、
サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。
段差排除や手すり設置といったバリアフリーに加えて、
日頃の健康やいざという時の安心・安全に繋がる
「見守り・生活相談サービス」、
有料老人ホームで必要だった多額の入居一時金が不要となるなど、
高齢者の健康に配慮し、
いざという時に備えた新しい住まいの制度となっています。
今回は制度開始から4年間が経過したサ高住を取り巻く現状と、
住宅会社からのアプローチについて触れていきたいと思います。
■ 登録戸数は鈍化、儲からないから増えないサ高住
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政府が目標とするサ高住の供給数は、
2020年時点で60万戸となっています。
これに対して2015年10月末までの登録戸数は18.7万戸、
1年あたりおおよそ4.7万戸増えている計算となります。
このペースで供給が続いた場合、
2020年時点では42〜43万戸の見込みで
20万戸近くの不足となりますが、
登録数を年ごとの推移で見ると7.8→5.3→3.1→2.6万戸となり、
徐々に供給は減少していることが分かります。
高齢者のための住宅が必要とされている中で、
なぜ供給が落ち込んでいるのか。
2011〜12年にかけて急速に普及が進んだことで
施設スタッフが不足したことも原因ですが、
根本的な問題としてサ高住は
一般的なアパートと比較すると利益が出にくい、
つまり儲かりにくいことが大きな参入障壁となっています。
まずサ高住の場合、物件のコンセプト決定や設計、
自治体との折衝など、手間がかかる割には居室部分を広く取れず
敷地を有効活用しにくいという問題があります。
物件タイプにもよりますが、サ高住では食堂やスタッフルームなど、
居室以外のスペースが多く必要になるため、
レンタブル比が50%を下回ることも珍しくありません。
ワンルームなら30戸取れるものが、
サ高住では25戸、20戸となるわけです。
当然同じ賃料ではサ高住の方が利回りは悪くなるので、
運営側としてはその分賃料を上げたくなります。
しかしそうなれば当然入居が悪くなりますから、
事業を成立させるためには、
高い賃料を支払ってでも入居したいという付加価値を付けるか、
賃料は安くして別に収益を上げる手段を確保する必要があります。
付加価値の代表的なものとしては、
介護が必要のない元気なシニアに向けて、
便利な立地やホテルライクな仕様、
美味しい食事といった仕様やサービスで惹きつけるものがあります。
提案内容としてはシンプルですが、
元気なシニアをターゲットにするため、
一般的なアパートやマンションと同様に
利便性の高い場所を確保する必要があります。
また、高い賃料を支払える層がいる場所という点から、
事業として成立するのは3大都市圏の中でも
更に好立地なエリアに限られています。
ただし土地オーナーからすれば、
わざわざ好立地でサ高住を建てるよりも、
利回りの良いアパートやマンションを建てる方がメリットがあるので、
地域社会への貢献など、
利回り以外を重視するオーナーでしか成立しにくくなります。
一方で賃料を安くすることで入居を確保すると共に、
サ高住に隣接する(あるいは施設内の)事業所や病院等から
医療・介護サービスを提供することで、
収益を確保するという方法もあります。
入居者にはサービス事業者を自由に選ぶ権利があるので、
入居とサービスの一体契約を迫るなど囲い込みは厳禁ですが、
物件管理者とサービスの提供者が同じだと安心という声もあり、
実際には両者が同一法人というケースが大半を占めます。
しかしこの方法は、トータルでの採算さえ合えば
賃料をどこまででも下げることが可能になるため、
各地域でサ高住が増え競合が激しくなるに従って、
入居者を集めるために
賃料の値引き合戦を引き起こすこととなりました。
そして、収益基盤がよりサービスに依存することで、
経営における新たな問題「制度リスク」も抱えていくことになります。
次回はサ高住の抱える制度リスクと、
現在の住宅会社の取り組みについてご紹介します。
(情報提供:住宅産業研究所)