2014年度住宅着工動向(後編)業界ニュース,市場動向,ハウスメーカー
前回お話しした通り、2014年度の持家着工は過去50年間の最低戸数を記録しました。
持家だけでなく、マンションや建売住宅も着工減となった中で、唯一前年を上回ったのが低層貸家(アパート)です。
直近の推移では、12年度20.7万戸(前年比8.6%増)から、13年度23.7万戸(同14.7%増)、14年度24.3万戸(2.6%増)と、3年連続で増加。相続対策としての需要喚起が始まってから、堅調に戸数を伸ばしています。
◇2014年度地域別低層貸家着工数及び前年比増減率(単位:千戸/%)
※表が見難い方はコチラからご確認ください
全低層貸家 在来木造 2×4 プレハブ
地域 戸数/増減率 戸数/増減率 戸数/増減率 戸数/増減率
全国 243.32/+ 2.6 60.12/+14.6 66.70/▲ 0.6 85.03/+ 0.2
北海道 8.88/+ 8.3 5.22/+16.1 3.34/+ 4.1 0.29/+17.7
東北 20.49/+ 4.2 6.45/+ 8.3 6.42/▲ 0.5 6.27/+12.5
北関東 15.11/▲ 4.3 2.00/▲12.4 6.18/+ 0.8 6.23/▲ 4.9
首都圏 88.46/+ 2.7 21.61/+17.1 15.96/+ 1.7 37.52/▲ 2.6
北信越 13.13/+12.9 3.32/+12.9 4.81/+10.5 3.86/+12.5
東海 25.18/▲ 0.8 4.56/+ 8.5 9.86/▲11.7 8.01/+ 5.9
近畿 31.01/+ 5.1 6.34/+41.0 6.58/▲ 6.8 11.34/▲ 0.3
中国 13.36/▲ 2.1 2.33/+11.0 4.97/+ 4.2 4.57/▲ 3.4
四国 6.03/▲ 5.9 0.89/+ 1.5 2.66/▲ 3.8 1.60/▲ 5.7
九州 21.69/+ 4.3 7.41/+11.2 5.93/+ 8.5 5.36/+ 2.3
※国土交通省 住宅着工統計より(社宅等の給与住宅を含む)
持家着工では全エリア・全工法で概ね2割減という状況でしたが、
低層貸家では上記の通り、
エリアや工法にばらつきが見られました。
最大のボリューム市場である首都圏は、
上半期時点の▲0.8%から回復し、
2014年度通期では2.7%増とプラスに転じています。
特に神奈川県は、上半期▲12.4%と全国のワーストランキングに
入る下落率でしたが、2015年1月〜3月の第4四半期に大幅回復。
1月(前年同月比22.1%増)→2月(同38.7%増)
→3月(33.9%増)と続伸し、
最終的に2014年度は4.4%増と、
全国平均を上回る増加率となりました。
上半期は埼玉県を下回っていた着工戸数も、通期では約2万戸と、
東京都(約3.6万戸)に次ぐ全国2位の市場規模を維持しています。
工法別で見ると、2×4が微減、プレハブが横ばいという中で、
在来木造が14.6%増とダントツに増えていることが分かります。
低層貸家に占める在来木造のシェアは13年度22.1%から、
14年度は24.7%へと拡大しました。
エリア別に見ても、在来木造は北関東以外のすべてで前年を
上回り、近畿エリアでは41.0%と大幅に増加しています。
自宅と併用で貸家を建てるケースや、
戸建貸家による小規模土地活用が増えていることを考えれば、
貸家における在来木造の伸びには引き続き期待できそうです。
■ 給与住宅(社宅)は過去5年で最多
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
低層と中高層を合わせた貸家系住宅36.6万戸(前年比▲2.4%)を、
一般の貸家と給与住宅(社宅や官舎等)に分類すると、
一般の貸家が約35万8000戸(前年比▲3.1%)、
給与住宅が約7900戸(前年比49.2%増)となります。
給与住宅の着工戸数は、
リーマンショック以前の年間1〜1.3万戸前後から
激減して5000〜7000戸台を推移しています。
2014年度は直近5年間では最多の戸数となりました。
ボリュームとしては貸家系全体の2%程度と少ないものの、
その伸率の高さには注目しておきたいところです。
社宅というと、企業の資産圧縮のためにリノベーション会社などに
売却されるという話がよく聞かれますが、
その一方で上記のように新設の動きも活発化しています。
旧来の社宅に対しては、
職場のヒエラルキーが家族にも影響するといった
後ろ向きのイメージを持たれる方も多いかもしれません。
しかし現在では、若い労働力を確保し定着させるため、
また海外から有能な人材を受け入れるため、
彼らが生活を楽しみながら人間関係と仕事のスキルを育む
施設の建設が進んでいるようです。
共用部には仕事を学ぶための研修室のほか、
ちょっとした運動ができる屋外施設、カラオケルームなどの
娯楽施設を設け、単身者がシェアハウス感覚で
連帯感を醸成する場所として社宅を建築する事例が目立ちます。
単身者にとって居心地の良い賃貸・給与住宅が増えることは、
晩婚・非婚化の促進要因となり、
持家の需要を減少させることにもつながります。
そうなれば、戸建やマンションなど家族向け住宅の空き家問題や、
単身者の老後の住まいをどうするかという問題にも発展します。
現在の住宅需要のあり方が、将来どのような市場構造を生むのか、
先を見据えた戦略が求められます。
■ 建売は東北で大手メーカーの供給続伸
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
建売住宅(低層分譲住宅)の動向は下記の通り。
◇2014年度 地域別建売住宅着工数及び前年比増減率(単位:千戸/%)
※表が見難い方はコチラからご確認ください
全国 :127.1/▲ 7.4 北海道 : 1.9/▲ 1.5 東北 :5.3/+7.9
北関東 : 6.3/+ 1.3 首都圏 :60.4/▲ 7.4 北信越 :3.0/▲0.1
東海 : 15.3/▲ 8.1 近畿 :22.6/▲15.6 中国 :4.0/+6.5
四国 : 1.2/▲ 9.0 九州 : 7.1/▲ 6.0
年間着工5000戸超のエリアでは、東北の伸びが目立ちます。
東北の建売住宅の着工伸率を工法別に見ると、
在来木造:5.9%増、2×4:14.9%増、プレハブ:20.8%増。
プレハブは13年度の28.7%増から2年連続で大幅増を
達成しました。
東北は、復興需要や防災強化というだけでなく、
人口減少社会におけるインフラの効率化という面からも
新しい街づくりが必要とされています。
そういった背景からも、総合的な開発力のある
大手メーカーが大きな力を発揮しているようです。
前回、住宅着工の全体傾向を解説した際、
2014年度の建売住宅着工の下落率は
下半期に向けて拡大したとお話ししました。
8月〜1月の6ヶ月連続で2桁減が続き、
2月に一旦増加(2.7%)に転じた後は、
直近の3月〜5月まで、再び前年を下回って推移しています。
当然、建売住宅の供給は持家の需要動向を見ながら
調整することになります。
需要が回復しない中で建売の供給をしていくには、
中庸な価格設定や無難なプランでは限界があります。
土地なし客にとっての手軽さ(価格)で
大きなアドバンテージをつける、あるいは先進の居住性能と
スマートシティやコンパクトシティ等による
生活環境全般で魅力を創出するといった工夫が必要です。
(情報提供:住宅産業研究所)