住まいがもたらす生産性(前編)商品・トレンド,市場動向
2013年度の新設住宅着工戸数は消費増税の駆け込みによって98.7万戸と久々の大幅増となりました。
しかし2014年度はその反動で住宅全体では前年度比1割減、持家でも2割減と苦しい状況が続いています。今後の住宅市場についても、住宅取得のボリューム層である若年層の年収が減少したことや生涯独身の若年層が増えたこと、またそもそも若年層自体が減少していることから縮小していくことはほぼ確実で、将来的な着工戸数は60万戸台とも言われています。
こうした市場の中で、ユーザーの住宅建築に対する見方もより厳しくなりつつあります。
近年は若年層の消費行動において
「購入のために支払った金額に見合ったサービスを得る」、
コストパフォーマンスが重視されていますが、
住まいについてもパフォーマンス、つまり
具体的なメリットを求められるようになってきています。
特に最近は売電によって収入を得られる太陽光発電システムや、
家賃収入が得られる賃貸併用住宅のように、住宅が生み出す
収入を中心とした「生産性」が注目を浴びています。
そこで今回は住まいがもたらす生産性と題して、
収入、時短、交流の3つの生産性から
今後求められる住宅像について考えてみたいと思います。
■ 「住まい=収入」収益をもたらす住まいの形
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住まいの生産性の中で最も関心を集めているのは、
やはり金銭的なメリットです。
2014年は消費増税や電気料金値上げなど、
より生活費の負担が増えた年でもありました。
年金受給開始年齢の引き上げや、国内経済の
先行き不安などから、将来に向けてより多くの収入や
貯蓄を確保したいという傾向は強まっています。
収入を生む住まいとしては現在太陽光発電システムが
筆頭ですが、売電額は今後更に減少していくことが
ほぼ確実で、将来的には蓄電池との併用により
住まいの光熱費を削減する方向性にシフトしていきます。
そこで収入を生む住まいの一つの切り口として
注目したいのがテレワーカー(在宅勤務者)向け住宅です。
総務省が2013年に発表した「世界最先端IT国家創造宣言」
では、雇用形態の多様化とワークライフバランスの実現と共に、
テレワーカーの増加を目標に掲げています。
テレワーカーが増えることによって
下記のようなメリットがあります。
1)通勤が不要→渋滞や大気汚染の解消
2)どこでも働ける→地域活性化、疫病対策
3)在宅時間が増える→子育て介護の時間が増え、
少子化や高齢化対策になる
4)光熱費や人件費など企業の経費削減
特に近年は女性や高齢者の就労が推進されていることもあり、
政府にとってもその受け皿としてテレワーカー雇用を
促進していきたいとの考えがあります。
ミサワホームが2013年に在宅ワーク応援住宅として
発売したミニラボは、リビング横に生活音を一切遮断した
遮音性の高い仕事用スペースを設置するというもので、
子どもの見守りと仕事への集中を両立した商品となっています。
また、在宅での仕事ならば両親の介護が必要になった際も
対応できる可能性は高く、働き手を減らさない
雇用先としても今後有望だと考えられます。
太陽光発電や賃貸併用住宅のように住まいそのものが
収入を生むわけではありませんが、収入を得る手助けを
することによって、生産性を高める一つの事例となっています。
ライフサイクルコストの削減によって支出を減らす住まいも、
今後は更に注目度は高まります。
これまでは高気密・高断熱や、高効率の換気設備・
住宅設備による光熱費削減がメインでした。
しかし今後は光熱費に限らず、車の維持費や食費など
あらゆる生活費を住まいを通じて削減することに
関心が集まる可能性が高くなります。
例えば食費については、自分で栽培することで
節約しようという志向がより強まっていきます。
近年はシニアよりも、若年層〜中高年層といった年齢層で
農業に関する関心が高まっており、都市部を中心に
市民農園や貸し農園の開園が顕著に増えています。
住宅においても家庭菜園をテーマにした分譲地が
増加しているほか、サンヨーホームズが発売している
「ベジタリウム」のように、キッチンカウンターを利用して
野菜を栽培するといった提案も登場しています。
夏の日射を和らげる緑のカーテンについても、
実を食べることができるゴーヤの人気は安定しており、
このような住まいにおける食の提案は今後更に
増えていくことが見込まれます。
自動車を活用した生活費の削減事例も出てきています。
自動車メーカーの日産では、自社のEV「リーフ」のユーザー
に対して、ディーラーや全国の指定施設約4,100か所の
急速充電器を定額で利用できるサービスを実施しています。
これにV2Hシステムを加えることで車から住まいへの
電力供給が可能になり、車だけでなく住まいの維持費まで
大幅に低減することで家計を助けています。
(情報提供:住宅産業研究所)