「住生活基本計画から見る政策の方向性【2】」市場動向
前回は、3月19日に閣議決定した「住生活基本計画」で
示されている3つの視点、8つの目標のうち、
「社会環境の変化」の視点に関わる
2つの目標について見てきました。
今回は残る2つの視点「居住者・コミュニティ」及び
「住宅ストック・産業」に関わる6つの目標を解説します。
「居住者・コミュニティ」~多様な生活者が住まいやすい環境づくり
【目標3】
《子どもを産み育てやすい住まいの実現》では、
若年世帯・子育て世帯の都心居住ニーズ、
利便性を重視する住宅取得の推進や、子どもの人数、
生活状況等に応じた柔軟な住替えの推進、
保育・教育施設や医療施設等へのアクセスに優れた
賃貸住宅の整備等が示されています。
まちづくりでは、
職住・職育が近接する環境の整備が推進されます。
【目標4】
《多様な世代が支え合うコミュニティの形成とまちづくり》では、
高齢者・障碍者等が健康で安心して暮らせる住まいの確保として、
住宅のバリアフリー化やヒートショック対策、
IoT技術等を活用した高齢者の健康管理や
遠隔地からの見守りサービスの普及、
多様な世代がつながり交流するミクストコミュニティの形成等が
示されています。
成果指標としては、「高齢者の居住する住宅のうち、
一定のバリアフリー性能及び断熱性能を有する住宅の割合」を
2018年:17%→2030年:25%に、
「高齢者人口に対する高齢者住宅の比率」を
2018年:2.5%→2030年:4%にするという数値目標が示されています。
【目標5】
《住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティー
ネット機能の整備》も【目標4】に近しい内容です。
高齢者や障碍者、低所得者や外国人の住まいの確保のための
公営住宅の建替えやバリアフリー化、孤独・孤立対策の観点も踏まえ、
住宅確保要配慮者に対する入居時のマッチング・相談、
入居中の見守り・緊急対応等の実施等が示されています。
「住宅ストック・産業」~空き家を減らし良質なストックを流通させる
【目標6】、【目標7】は、
「住生活基本計画」におけるかねてからの課題である、
良質な住宅ストックの形成と空き家の利活用に関する内容です。
良質な住宅ストックの形成に向けて、
新たに成果指標が示されたのが、以下の2項目です。
・「住宅ストックのエネルギー消費量の削減率(2013年度比)」を
2018年:3%→2030年18%に高める
・「認定長期優良住宅ストック数」を
2019年113万戸→2030年:約250万戸まで増やす
2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、
新築住宅だけでなく、住宅ストックのライフサイクルCO2排出量を
少なくするという計画です。
安心R住宅や長期優良住宅等の、
既存住宅の情報が購入者にわかりやすく提示される
仕組みの改善も進めて住宅ストックの流通を促進し、
2018年は約12兆円だった既存住宅流通及びリフォームの市場規模を、
2030年には14兆円、長期的目標として20兆円まで拡大する計画です。
空き家の適切な管理・除却・利活用については、
「居住目的のない空き家数」は2018年には349万戸ありましたが、
2030年には400万戸程度までの増加に留めたいという目標です。
そのための新たな成果指標として、市区町村の取組によって、
2021~2030年の期間で20万物件の管理不全空き家を
除却するという目標を示しています。
また、良好な空き家の利活用として、
空き家・空き地バンクを活用しつつ、
古民家等の空き家の改修・DIY等を進め、
セカンドハウスやシェア型住宅等、
多様な二地域居住・多地域居住が推進されます。
【目標8】
《住生活産業の発展》は、
大工技能者の確保・育成、CLTの活用や木造中高層住宅の普及、
センサーやドローンを活用した住宅の遠隔検査等、
現在の住宅産業で課題となっていること、
中期的なトレンドとなっていることが示されています。
果指標は、国交省の分科会等によって、
具体的な施策や目標達成を後押しするための支援制度等が
随時設けられていくでしょう。
どれも現在の住宅産業や生活者が抱えている重要な課題であり、
成果指標の達成に向けて業界全体で取り組んでいきましょう。
(情報提供:住宅産業研究所)