「空き家を放置しないための改正案が通常国会で審議」業界ニュース
空き家の増加スピード鈍化も侮れず
近年、社会問題化している空き家ですが、
実は空き家の増加スピードは鈍化傾向にあります。
総務省の住宅土地統計調査において、直近2018年調査では
848万戸でした。1988年時点では全国394万戸であったため、
過去30年間で空き家数は2倍以上に拡大したことになります。
その内、1993年から1998年にかけての5年間は
最も空き家が増加した期間であり、増加数は129万戸です。
その後増加スピードが鈍化し、
2003年から2008年にかけては97万戸増。
2013年から直近2018年にかけては29万戸増に留まっています。
空き家率においても空き家数と同様の傾向が見られます。
1993年~2008年にかけて、
空き家率の5年毎の上昇率は平均1.1ポイントでした。
そして、2003年~2008年は0.4ポイント、
2013年~2018年は0.1ポイントと、
上昇スピードに歯止めがかかっているように見えます。
住宅ストック関連の推移を予測している野村総研は
2016年時点で、2018年の空き家率を16.9%と予測していましたが、
結果としては住宅土地統計調査ベースで13.6%。
野村総研の空き家率予測よりも3.3ポイント下回り、
「想定よりも空き家が増えなかった」という結論になりました。
空き家数の増減は人口や世帯数、
着工戸数、滅失数などに起因します。
国勢調査によれば、人口は減少フェーズに入りましたが、
世帯がまだ増えており、社人研による推計では、
世帯数がピークは2023年としています。
そして、年間住宅着工戸数は
着工統計ベースで減少傾向にある一方で、
滅失登記件数はこの数年ほぼ横ばいで推移しています。
これら3要素の推移が、
空き家の増加スピード鈍化要因となっていると考えられます。
短期的に空き家が急増する可能性は高くありませんが、
現在迎えつつある超高齢化社会、
多死社会においては再度空き家が急増するかもしれません。
オーナーが亡くなるといった要因のほか、
高齢者が施設や病院に入所している間
空き家状態になっている物件に関しては、
空き家状態が長期化することもあります。
空き家対策の一つとして、
住宅を含む不動産の生前相続などの取り組みは
今後さらに重要となるでしょう。
政府が相続空き家の放置取り締まり強化に動く
政府は住宅や土地の放置対策として、
民法など関連法の改正に乗り出しました。
今年の通常国会には民法、不動産登記法改正案を提出しており、
成立となれば、これら関連法案が
2023年以降順次施行される予定です。
今回のメルマガでは民法、
不動産登記法改正案の主なポイントを紹介します。
また、エンドユーザーから住宅に関する相談が
増える可能性もあり、早期に準備しておく必要があります。
改正案のポイントはまず、「土地・建物の相続登記の義務化」です。
現在、相続登記に関しては任意で申請期限も設けられていませんが、
改正案では相続から「3年以内」の登記を義務付けています。
この3年を過ぎると違反となり、10万円以下の過料が請求されます。
また、不動産の所有者が住所などを変更した場合についても
2年以内の登記を義務づける予定で、
登記しなかった場合は5万円以下の過料となる方針です。
次いで「相続人申告登記制度の新設」です。
登記期限に間に合わない場合、相続人の氏名、住所などを
登記することで、先述の過料を免れることができます。
この他、相続から10年が経過した場合には
原則法定相続割合で分けたり、
国が一定の条件を満たす土地を引き取る制度などの
法案を用意しています。
3つ目が「遺産分割協議期間の設定」です。
現行の民法においては、相続が発生すると
遺産分割協議によって財産を分割することが可能ですが、
期限の制限はありませんでした。
民法改正案では「遺産分割協議の期限を最長10年とする」
内容が盛り込まれています。
最後に「土地所有権の国庫帰属制度の新設」です。
相続人の懸念は、
相続したことによる税や維持管理費用などの負担です。
そのため、政府は相続対象である土地を
国庫に返納できる制度も設ける予定です。
とはいえ、全ての不動産を返納できるということではなく、
土壌汚染や建造物がないこと、
担保になっていないことなどが条件となる予定です。
国土交通省管轄の「令和元年空き家所有者実態調査」によれば、
空き家の取得方法として最多は「相続」でした。
割合にして過半数の54.6%、次いで「新築・建て替え」が18.8%、
「中古の住宅を購入」が14.0%の順となっています。
空き家の中にはこれらの他にも、
相続されずに所有者不明の空き家として
放置され続けるものもあります。政府の改正案には、
相続を義務化することでこのような空き家を
減少させる狙いがあると言えます。
(情報提供:住宅産業研究所)