空き家活用と地方創生
LIFULLが空き家活用に本腰
不動産情報サイト「LIFULL HOME’S」などを運営する株式会社LIFULLは独自の空き家活用をスタートしています。同社はこれまで、全国の地方自治体が持つ空き家情報を一括で紹介し、これらの利活用を希望するユーザーとのマッチングを目指す情報プラットフォーム「LIFULL HOME’S 空き家バンク」を運営してきました。このHPでは全国の空き家物件情報を検索、比較検討できるだけでなく、実際に空き家を購入したユーザーや移住したユーザーに焦点を当てた取材記事やコラムが豊富で、空き家の購入などを検討しているユーザーに活用されています。
さらに同社では2018年から福井県鯖江市で空き家活用をスタートしました。鯖江市は眼鏡の生産地として全国的に有名ですが、近年は市内の人口減少を背景に空き家の増加が問題となっています。LIFULLは同市と2017年に「空き家の利活用を通じた地域活性化連携協定」を締結し、空き家の利活用セミナーなどを地域住民向けに開催してきました。その活動の一端として、LIFULL自らが2018年、福井県鯖江市に空き家を活用したサテライトオフィスを開設したのです。木造2階建てで延べ床面積113平方メートルの建物を改装し、現在同グループ会社のウェブ制作を手掛ける「SUI Products」とアプリを運営する「LIFULL FaM」が利用しています。
人材面では現地の子育て中の女性やクリエーターを目指す若者を雇用し、多様な働き方を用意しています。社員の多くが子育て中の母親という「LIFULL FaM」は社内にキッズスペースを設けており、子連れで通勤することが可能です。このサテライトオフィス開設にあたり、空き家活用だけでなく、現地の雇用も生み出している点で地域貢献にもつながっています。また働きたくても子育てなどを理由に働くことができない人が大勢いるとすれば、そのような人々のために活躍しやすい場を作ることで、人材不足という企業側の問題も大きく改善されるのかもしれません。
また、同社は、市内で地元企業を交え、住民参加型空き家魅力度UP協議会を発足しました。この組織は、鯖江市内の空き家をリノベーションし、中古物件として再販するモデルケースづくりを目的としています。2018年9月には市内の築50年の空き家をセルフリノベーションするワークショップを開催し、期間は3日間で、延べ37名の地域住民が参加しました。予算は100万円と決して多くはないですが、DIYで居室3部屋の内装を刷新することができ、少ない予算で住まいのイメージを大きく変えられることは、ユーザーにとって貴重な気づきとなるはずです。このような活動を通してユーザーのリフォーム、リノベーションのリテラシーが向上することで、空き家を含め徐々に既存住宅を活用する機運が高まっていくことでしょう。
自治体発の空き家イノベーション
これまで、自治体が実施している空き家の利活用促進策としては、空き家バンクが主でした。今回は特異な事例ではありますが、長野県塩尻市の公務員である山田崇氏が立ち上げた空き家プロジェクト「nanoda」を紹介します。このプロジェクトは、市内にある「大門商店街」に賑わいを取り戻すことを目的に、2012年にスタートし、今年で8年目を迎えています。発起人は塩尻市役所職員で現在、地方創生推進課に属する山田崇氏です。同氏は商工会議所に出向し、大門商店街の活性化を任せられた際、「まずは自分たちが商店街に身を置こう。住んだことも、商いをしたこともないのでは課題を解決できない」と考え、活動拠点としての活用を見据えて自ら空き家を借り上げました。市役所職員の有志らが1,000円ずつ出し合って月11,000円の家賃を捻出し、このスペースを「nanoda」と名付け、以来「〇〇なのだ」と称したイベントを定期開催しています。
オープン当初から続く、地元のワインを堪能する「ワインなのだ」は月1回の開催で、通算80回を超える名物イベントとなりました。この他にも月に5~6回ほどイベントを開催しており、地域の老若男女が集まる集会所のような役割を果たしているようです。一定の予算を必要とするイベントを開催する際には、クラウドファンディングを活用することもあるようです。空き家そのものは公衆衛生上、マイナスイメージで捉えられがちですが、活用方法次第で地域活性化につながることもあります。新しい箱を作るだけでなく、既存のものを上手く活用していくことは費用も抑えられます。かつてシャッター商店街だった大門商店街に「nanoda」が生まれ、ここから空き家をリノベーションしてシェアオフィスとして生まれ変わった「mimosa」や、市民発のイノベーションを生み出すための拠点「スナバ」、官民連携で地方創生に取り組むスキーム「MICHIKARA」などもオープンしました。山田氏以外の市役所職員たちも空き家を6軒ほど借りており、地域の賑わい創出に努めています。空き家は「住む」という機能に留まらず、仕掛けによっては「楽しむ」ことができる空間に変化し、活用方法次第で多様な可能性があると言えます。
(情報提供:住宅産業研究所)